『ヤンバルカラマツ』について
物語は、30年程前の話である。植物調査を始めて間もない頃、「ブロッコリーの森」と呼ばれている自然豊かなやんばるの森で調査を行う機会を得た。絶滅危惧種や固有種等の多産する植物群に圧倒され、確認したい採取標本が多くなった。1994年に横田昌嗣氏(当時:琉球大学理学部助教授)にいくつか植物標本を持込み確認していただいた。その内の1種が沖縄で初確認(日本では北海道~九州に分布、奄美大島・沖永良部島に極めてまれ)のアキカラマツと同定された。この植物は渓流脇の飛沫のかかる滝壁面で局所的に生育しており、当時、見慣れない種をずぶ濡れになりながら採取した思い出がある。
1997年になって沖縄生物学会誌にアキカラマツとして新分布が掲載され、植物屋としてお役に立てたかなと自負した記憶がある。 年月が過ぎ記憶も薄れた頃、本種が沖縄美ら島財団・東北大研究グループによって新種の植物として「ヤンバルカラマツ」と命名され、2025年3月28日の植物分類学に関する専門誌にオンライン掲載。2025年4月11日(金)に地元新聞でも新種の植物「ヤンバルカラマツ」と伝えられた。 さらに新種として解明されたと聞き、嬉しく思うと同時に「ブロッコリーの森」で太古の時代から密かに生活する生き物たちの環境を維持していくことが、我々の重要な責務だと再認識させられた。(大城秀幸 技術統括)
発見時のヤンバルカラマツ 沖縄島北部の滝(1994年)
<参考>
・琉球植物誌(1975)、初島住彦 P-280:アキカラマツ Thalictrum minus 分布:奄美?、沖永良部、日本(北海道~九州)、朝鮮、満州、中国
・琉球植物目録(1994)、初島住彦・天野鉄夫 P-58:アキカラマツ Thalictrum minus 分布:沖永良部島? 低地
・沖縄生物学会誌35(1997)、琉球列島植物分布資料15